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東京地方裁判所 昭和27年(行)35号 判決

原告 山田茂登子

被告 東京都知事

主文

東京都葛飾税務事務所長が別表の上欄記載の通り原告に対してした処分の取消を求める原告の訴を却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「原告に対し、東京都葛飾税務事務所長が別表上欄記載の通りした処分及び被告が別表下欄記載の通りした決定は、いずれも取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、かつ被告の主張に答えて、次のとおり述べた。

原告は肩書地に施設をもつてパチンコ経営を営業とする者である。

東京都葛飾税務事務所長は原告に対し、パチンコ施設が地方税法七五条四項四号の施設に当るものとして、別表上欄記載のとおり入場税についての処分をし、その頃原告に通知した。原告はこれを不服として被告東京都知事に異議の申立をしたが、被告は別表下欄記載の通り原告の異議申立を理由なしとして棄却する旨の決定をし、その頃原告に通知した。

しかし、パチンコの施設は地方税法(以下単に法という)七五条四項四号の施設に当るものでないから、前記各決定は違法である(原告は別に額そのものを争うものではない)。パチンコ施設が右四号の施設に当るものでないからこそ、原告は徴収すべき入場税について申告書の提出も税金の納入もしなかつたのである。

パチンコの施設と法七五条四項一号ないし三号の施設とは、次の点で異る。

(一)  法七五条四項一号ないし三号の施設は、その施設の経営者が遊技又は競技の勝者に対して賞品を与える施設ではないが、パチンコの施設は、その経営者が遊技の勝者に対して賞品を与えることを本質とする施設である。即ち、パチンコ機にいれて打つた玉が当り穴にはいれば、経営者は客に対して一定の賞品を義務として与えなければならない(サービスにおける景品のように与えてもよく与えなくてもよいようなものではない)。これは、競馬競輪においては当り券に対して必ず賞金を与えなければならないのと同じである。右一号ないし三号の施設は遊技競技を楽しむことを本質とするものであるが、パチンコで遊技をする者は、主として当り玉によつて賞品を得ることを楽しみ、この楽しみのために遊技をするのである。これ馬券車券を買う者は、主として馬券車券が当ることによつて賞金を得ることを楽しみ、その楽しみのために馬券車券を買うのと同様である。

被告は、パチンコの施設は特に法七五条四項三号のつりぼりに類するというが、つりぼりはその利用者が魚つりを楽しむことを本質とする施設であるに反し、パチンコはその利用者が結局において賞品を得ることを楽しみ、その楽しみのために遊技をする施設である。つりぼりで得るつり上げた魚は添物的景品であるが、パチンコをして得る景品は添物的サービスではない。つりぼりにおいてつり上げた魚をどれだけ客に与えるかは経営者が一方的にその経営採算を考慮してきめることができるものであるに反し、パチンコにおいては玉が当り穴にはいつた以上経営者は無制限にその全部について賞品を与えなければならない。つりぼりにおいては、利用料金の範囲内において一定の割合による景品を出すに過ぎず、利用者の技能の優劣によつて景品の取得に多少の差異を生ずるにしても、それは右の範囲を出でず、経営者の採算をこえてまで無制限に景品を与えねばならぬというようなことはない。しかるに、パチンコにおいては、玉が当り穴にはいれば無制限にその全部に対し賞品を支払わねばならず、一定の割合をこえれば賞品を出さなくていいというようなことはない。

以上の点において、パチンコの施設とつりぼりは、その本質を異にするものである。

もし「だるま落し」「射的」「スマートボール」が勝者に対し常に無制限に賞品を支払わねばならぬ施設であるならば、これらの施設は、パチンコの施設と同じく、やはり法七五条四項四号に当る施設ではない、といわなければならない。

なお被告は、パチンコにおいては玉を当り穴へいれる技を楽しむことが主体であつて、賞品を得ることは第二次的の添物であるようにいうが、パチンコにおいては玉を当り穴にいれる技を楽しむとともに、賞品の得喪をも同時的、綜合的、一体的、不可分的に楽しむのであつて、賞品の得喪は第二次的添物として娯楽的要素の一部をなしているというようなものではない。

(二)  法七五条四項一号ないし三号の諸施設は利用料金即ち売上金全部が所得となる施設であるが、パチンコはパチンコ機の利用料金(売上金)から賞品代(景品代)を控除した残額が所得となる施設である。このことは(一)に述べた両者の相違から生ずる当然の帰結である。右一号ないし三号の施設は利用料金を払つてこれらの施設を利用する者に対して賞品を払うことを本質とする施設ではない。したがつて、その利用料金の全額が経営者の所得となるのである。しかるに、パチンコにおいては、パチンコ施設の利用者の打つた玉が当り穴にはいれば、経営者は必ず一定の賞品を与えなければならない。したがつて、売上金から賞品代を控除した残額が経営者の所得となるのである。以上の点においてパチンコは右一号ないし三号の施設と異る。

(三)  パチンコは、客の技能の優劣によつて経営者の所得に変動を生ずる施設であるが、法七五条四項一号ないし三号の施設においてはかかる現象をみることができない。パチンコにおいては、客の技能が優れるに伴つて玉がよく当り穴にはいり、したがつて経営者の客に支払う賞品は増加し、経営者の所得は減少する。時には経営者は玉の売上金よりはるかに多額の賞品を払わねばならぬこともあるのである。しかるに、右一号ないし三号の施設においてはかかる現象をみることができない。このことは、パチンコにおいては課税標準としての利用料金を確定することができぬことを意味する。この点においてもパチンコは右一号ないし三号の施設と異る。

この点について被告のいうところは不当である。消費税の課税客体たる消費行為とは、消費行為者が必ず消費金額の全額を喪失するような行為である。もし消費行為者において必ず消費金額の全額を喪失するものでなく、一定の場合に一定の金品を取得することがあるとするならば、かかる行為はもはや消費税の課税客体たる消費行為とはいえない。パチンコ施設において遊技客があらかじめ玉を買う行為は、パチンコ施設を利用して遊び、玉を当り穴にいれることによつて、一定の賞品を取得しようという行為である(そして当り穴にはいれば必ず賞品を取得するのである)から、消費税の課税客体たる消費行為には当らない。いいかえると、パチンコ施設で玉を買う行為は、一定の金品の得喪を目的とするものである関係上、敗者となつた客は玉代全額を消費したことになるに反し、勝者となつた客は玉代金の全部又は一部を消費しないことになる。したがつて、玉を買うことによる消費行為の内容は一定せず、これを消費税の客体とみようとしても、課税標準額は客観的に確定することができないのである。

(四)  法七五条四項一号ないし三号の施設においては、その経営者は利用者から利用料金とともに、その金額に一定税率を乗じて得られる入場税を徴して施設を利用させ、その利用者においても利用料金及び入場税を払つて施設を利用していること、現下業界の実状であるが、パチンコ施設においては、そのようなことはない。これはパチンコ施設の利用料金は変動常なく、これを確定することができないことから生ずる当然の帰結である。即ち、課税標準たる利用料金が変動常なく、これを確定することができぬにおいては、利用料金を対象として一定税率で定まる入場税額を確定するに由なく、したがつてこれを徴収することもできないのである。事実、パチンコ施設の経営者においては入場税を徴する意思なく、利用者もこれを支払う意思がないのである。

以上(一)ないし(四)のとおり、パチンコの施設は法七五条四項一号ないし三号の施設に類する施設ではなく、これと全く異る施設であるから、パチンコの施設が法七五条四項四号に当る施設であることを前提としてした本件税務事務所長の処分及び被告東京都知事の決定はともに違法である。よつてその取消を求める。

以上のとおり述べた。

(立証省略)

被告代理人は、原告の請求を棄却する旨の判決を求め、次のとおり答弁した。

原告がその肩書地に施設をもつてパチンコ経営を営業としていること、東京都葛飾税務事務所長が原告に対し、パチンコ施設が法七五条四項四号の施設に当るものとして原告主張のとおりパチンコの入場税についての処分をし(原告が申告書の提出も税金の納入もしないから、)その頃原告に通知したこと、原告がこれを不服として被告に異議の申立をし、被告が原告主張の通り異議棄却の決定をし、その頃原告に通知したことは、認める。

パチンコは法七五条四項四号に当る施設である。

(一)  法七五条四項一号ないし三号にかかげる各種施設は、施設そのもの及び遊びの態様において相互に異るところがあるが、興行的でない大衆娯楽的施設で、客が直接施設を利用して遊ぶ者であるという点において共通性をもつ。そして、かかる娯楽的施設としては、右一号ないし三号にかかげるもの(それはいずれも例示である)のほかにも多種多様のものがあり、将来も新規のものがあらわれることが予想されるので、これらのすべてを包含する主旨で、法七五条四項四号を規定したのである。

ところで、パチンコは、周知のように、遊技客(施設の利用者)が、施設の経営者から買つた玉をはじいてパチンコ機の当り穴にいれる技を楽しむ施設である。玉が当り穴にはいれば賞品をもらえるが、これは一時の娯楽に供する添物として楽しみを色づけるものである。かかる施設は、右一号ないし三号の例示的施設特に三号のつりぼりに類するものである(一号ないし三号の施設はすべて興行的でない娯楽施設という点で共通性をもつが、その中で、一号のものは相手を必要とする娯楽であり、二号のものはスポーツ的娯楽であり、三号のものは相手を必要とせず、一人で楽しむ非スポーツ的娯楽である。かような分類からすれば、パチンコの施設は三号のもの、特に賞品の得喪が伴う点でつりぼりに類する)。したがつて、パチンコは法七五条四項四号に当る施設であるといわなければならない。

パチンコにおいては、経営者は当り穴に玉をいれた利用者に一定の賞品を与えなければならない義務を負つているにしても、三号のつりぼりの中にもつり上げた魚が賞品と同様の意味をもつ仕組のものがある。要は大衆的娯楽施設であるか否かが問題である。その施設の態様は千態万様であり、賞品を必ず出すか否かは、娯楽的施設であるか否かの本質を左右するものではない。パチンコにおいては賞品を出すことが娯楽的要素の一部をなしているだけのことである。ほかにも賞品を出す「だるま落し」「射的」「スマートボール」等の射倖的遊技施設で、パチンコ類似のものが多数ある。これらを特に右四号から除外しなければならぬ格別の理由はない。

(二)  パチンコ施設の入場税の課税標準は客観的に確定することができる。

原告は、「法七五条四項一号ないし三号の施設においては、その利用料金の全額が経営者の所得となる。これに反し、パチンコにおいては、パチンコ施設の利用料金(売上金)の中から賞品代を控除した残額が経営者の所得となり、しかも遊技客の技能の優劣(したがつて賞品代の多少)によつて経営者の所得に変動を生ずる。したがつて、パチンコ施設においては、入場税の課税標準としての利用料金は確定することができない。かかる点でもパチンコは前記他の諸施設と本質的に異る。」というが、しかし、この見解は何が利用料金かという問題と経営者の営利採算上の問題とを混同するものである。

元来、入場税は、法七五条一項によつて明らかなように、同条所定の場所への入場又は施設の利用に際し、入場者又は利用者がその納税義務を負うのであるが、税の性質からいえば、入場者又は利用者が入場料金又は利用料金を支払う、その消費行為によつて担税力を測定し、その消費者を税負担者として賦課するいわゆる消費税に属するものであり、課税客体はその消費行為である。

ところで、入場税の課税標準は、パチンコのような第三種施設にあつては、その利用料金であり、利用料金とは第三種の施設の利用について対価として支払う金品である(法七五条五項)。パチンコ施設の利用料金は何かというと、利用者即ち遊技客が遊ぶ前に経営者から買う(正しくは一時借り受ける)玉の料金である。何となれば、利用者は玉を買うことによつてはじめてパチンコ施設(パチンコ機及び賞品を与える人的施設を綜合したもの)を利用して遊ぶことができる(賞品の得喪も遊びの一部)からである。即ち、この玉を買う料金が施設利用の対価であり、その支払が施設利用についての消費行為として課税客体となるのである。そして玉一個を買う料金は一定しているから、利用者の支払つた料金、したがつて課税標準額は、これを確定することができるのである。

もつとも、経営者にとつては玉の売上金がそのまま所得になるのではないが、そのことは他の第三種の施設においても同様であつて、施設の維持修繕費、従業者の人件費等すべての経費を控除しなければ、所得を計算することができないはずである。ただパチンコの場合は、その必要経費の中に賞品の提供に要する経費(賞品代)も含まれることが、他の、賞品を出さない施設と異るのであるが、これは要するに経営者の採算上の問題に過ぎない。そして、消費税の客体たる消費行為に対しては、対価的なものが与えられるのがむしろ普通である(遊興飲食税、物品税)。

パチンコの玉の料金なるものは、パチンコ施設利用の対価として支払われるものであつて、この玉代の支出があれば、その行為が直ちに課税客体として法律上当然に課税されるものである。したがつて、遊技客が賞品を取得するかしないかということは玉の料金の支払がそのまま消費行為になるということに何ら影響を及ぼすものでない。要するに、賞品の得喪は単にパチンコ施設利用の内容の一部になつているだけであり、その施設利用の対価として支払われる玉の料金が一定のものであるということを左右するものでない。かように入場税の課税標準は客観的に確定できるのである。原告のいうように、玉代と取得した賞品の金銭価値とを差引計算して消費の有無を考えるということは、まちがいである。

なおパチンコにおける玉の料金と競馬における馬券代とは性質がちがう。パチンコの経営が風俗営業取締法の適用を受け、賭博性のない単純な娯楽遊技場として認められているものである以上、パチンコにおいては利用者が玉を当り穴にいれる技を楽しむことが娯楽の主体であつて、賞品の得喪は第二次的の添物として娯楽的要素の一部をなしているのである。この点で、競馬競輪のように賞金の得喪そのものを第一次的目的とするものとは、本質的に相違する。当り玉に対して賞品(賞金ではない)を出すことが、経営者の任意でなく義務であるとしても、それは経営者の負担において遊技客の技量(偶然性と相まつての)を賞し、賞品を一時の娯楽に供しているに過ぎないのであつて、玉の料金(売上金)の中に馬券代の如きものが含まれているわけではない。

要するに、経営者の営利採算上においては、玉の料金の中に賞品代も見込んで採算を立てているのであろうが、その料金そのものは、パチンコ施設の利用に際して利用者が消費する金額であり、法七五条五項の「施設利用の対価」に相当するものであること疑問の余地なく、たとえ遊技客の技能の優劣によつて経営者の所得が変動するとしても、それは経営者の営利採算上の問題であつて、何が利用料金であるかという問題とは、関係ないことである。

(三)  特別徴収義務者は入場税を実際には徴収しなくても、その納入義務を免れない。

原告は、パチンコにおいてはその利用料金が確定しないために経営者は入場税を徴収せず又利用者も同税を払つていない、経営者も利用者ももともとそのような意思をもつていない、というが、しかし、実際は、昭和二十六年十二月分まではパチンコ経営者の大半が、その後も半数近くが(本訴提起の関係で減少した)、自発的に法八七条三項東京都都税条例三三条二項(昭和二十九年条例第四号による改正前の)による税額等の申告をしているのであつて、原告の主張は事実に反する。また利用料金が確定できるものであることは、さきに述べたとおりである。

なお入場税はいわゆる法定税であつて、賦課について収税庁の別段の行政行為を要せず、法により直接に利用者に税が賦課されるのである。したがつて、仮りに施設の利用者に納税の意思がなくても、その納税義務は施設利用の度に当然に確定成立しているのである。また特別徴収義務者たる経営者は、その意思の如何に拘らず、法及び条例の規定により、入場税の徴収及び東京都への納入金の納入について一切の責任を負担し、都に対する関係においてはあたかも納税代理人のような地位に立つから、仮りに施設利用者が税を払わなかつた場合においても(経営者が税を徴収しなかつた場合においても)、その徴収すべかりし入場税金を都に納入すべき義務を免れることができないのは当然である(このことは法一一九条三項の規定の主旨からも推測できる)。

要するに、仮りに原告が入場税を徴収しなかつたとしても、これをもつてパチンコの利用料金は確定することができないという原告の主張の裏づけとすることはできない。

以上のとおり、パチンコの施設は法七五条四項四号の施設に当るものである。しかるに、原告はその徴収すべき入場税について申告書の提出も納入もしていないのであるから、前記税務事務所長が原告に対して入場税の税額及び不申告加算税の決定をしたことは適法であり、原告の異議申立を理由なしとして棄却した被告の決定にも違法はない。

以上のとおり述べた。(立証省略)

理由

まず、職権をもつて、東京都葛飾税務事務所長のした処分の取消を求める訴の適否について考える。

行政事件訴訟特例法三条によると、行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴は、他の法律に特別の定のある場合を除いて、処分をした行政庁を被告として提起しなければならないことになつている。そして、東京都都税条例四条の三本文によると、東京都では、知事は、徴収金の賦課徴収に関する事項及び都税に係る過料の徴収に関する事項を都税の納税地所管の税務事務所長、地方事務所長又は支庁長に委任している。この場合、税務事務所長等は、定められた範囲内で知事からその権限を委譲されたものというべく、単に知事の命をうけて、その事務の執行に当つているにすぎない、とすることは相当でない。本件において葛飾税務事務所長がした処分は、このように知事から委譲された権限に基いて同税務事務所長がした処分である。

してみると、葛飾税務事務所長がした処分の取消を求める訴は同事務所長を被告として提起しなければならないことが明らかであつて、東京都知事を被告として提起された本件訴は、右処分の取消を求める限度で、被告となすべきものを誤つた違法がある、としなくてはならない。

もつとも、昭和二十七年七月東京都条例五八号で改正される前の東京都都税条例四条の三但書三号は、異議の申立に対する決定とともに訴訟に関する事項を知事の委任事項から除外している。しかし、抗告訴訟の被告適格を定めた行政事件訴訟特例法三条の規定は、法律をもつてのみ例外規定をおくことができるので、条例をもつてその例外を定めることはできない。普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて、その所管の事務に関して条例を制定することができるのである(地方自治法一四条一項)。また、異議について決定をした行政庁(本件では東京都知事)を被告として、原処分(本件では葛飾税務事務所長のした処分)の取消を求めうる、という見解も、行政事件訴訟特例法三条の文理上、そして右二個の処分はそれぞれ別個に適法要件を考うべき必要があるという実際上の理由からも、にわかに採用することができない。

東京都葛飾税務事務所長がした処分の取消を求める原告の訴は不適法として、これを却下すべきものである。

つぎに、東京都知事のした処分の取消を求める原告の請求について考える。

原告がその肩書地に施設をもつてパチンコ経営を営業としている者であること、東京都葛飾税務事務所長が原告に対し、パチンコ施設が法七五条四項四号の施設に当るものとして、原告主張のとおりパチンコ施設の入場税についての処分をし、その頃原告に通知したこと、原告がこれを不服として被告に異議の申立をし、被告が原告主張のとおり異議棄却の決定をし、その頃原告に通知したことは、当事者間に争いがない。

さてパチンコの施設は法七五条四項四号の施設に当るものであろうか。

法七五条によると、その四項一号ないし四号の施設の利用に対しては入場税を課することになつており、その第四号には「前三号に掲げる施設に類する施設」とある。右一号ないし三号の施設は、いずれも大衆の娯楽のための施設であり、しかも客がその人的物的施設を利用して楽しむものである点において、共通性をもつている。パチンコの施設は如何。パチンコは一つの大衆娯楽施設である。客は料金と引換にパチンコの経営者から玉を受取り(俗に玉を買うという)、これをパチンコ機にいれてはじき、当り穴にいれることを楽しむ。玉が当り穴にはいると、パチンコ経営者はあらかじめ定めてある割合により賞品(景品といつてもよい)を客に与える。パチンコ施設が以上のようなものであることは、公知の事実である。

原告は、この賞品を出す点をとらえて、パチンコの施設は賞品を与えることを本質とする点において右一号ないし三号の施設とは異る、という。

玉が当り穴にはいると客は賞品をもらうことができるという点において、パチンコ施設の利用という行為が多分に射倖的な要素をもつていることは否めない。しかし、事態をありのままにみると、パチンコの客は、料金を払つてパチンコ施設を利用し、玉をはじいて当り穴にいれることを楽しみ、これに附随して、景品をもらう(玉が当り穴にはいつた場合に)のであつて、客とパチンコ経営者とが利益の得喪を争うことがパチンコ施設利用行為の本体であるのではない。パチンコを遊ぶ者の中には、賞品など眼中におかず、たゞ当り穴にいれることをねらつて玉をはじくこと自体を楽しむ者もあろう。また、子供のおやつのためにと、賞品を得ることを目的として遊ぶ者もあろう。そして、賞品をもらうことができるという期待がパチンコの娯楽性を高めることも事実である。しかし、パチンコ施設を利用する者の内心の意図によつてパチンコ施設の性質如何を決定することは相当でない。パチンコ施設の性質は、これを利用する者の意図如何に拘らず、パチンコ施設自体が客観的に如何なるものとしてあらわれているかによつて決定しなければならない。

原告は、パチンコを遊ぶにあたり料金を払うのは競馬競輪において馬券車券を買うのと同じであり、パチンコの施設は法七五条四項四号の施設には当らない、というが、パチンコにおいては賞品の得喪は、娯楽の一部をなしているが、その本体はパチンコ施設の利用者が玉を当り穴にいれる遊びを楽しむものであるに反し、馬券車券を買うのは賞金の得喪そのものを第一次的に目的とするものである。外にあらわれているところを客観的にみて、両者の間にはそういうちがいがある。これは本質的なちがいであるといわなければならない。当り玉に賞品を出すことがパチンコ施設経営者の義務であることは右の見方の妨げになるものではない。この点に関する原告の主張は理由がない。

さきに述べたとおり、パチンコの施設は、客がパチンコ経営者に料金を払つて玉の交付を受け、その玉をパチンコ機にいれてはじき、これを当り穴にいれることを楽しむ大衆娯楽施設である。玉が当り穴にはいると、客はあらかじめきまつている賞品をもらうことができるが、これはパチンコ経営者がパチンコの娯楽性を高めるために与えることを約したによるものであつて、客とパチンコ経営者が利益の喪失を争うのではない。

かようにみてくると、パチンコの施設は法七五条四項一号ないし三号の施設に共通する性質をそなえ、これらに類する(玉が当り穴にはいれば賞品をもらえるという一点ではつり上げた魚を景品としてもらえる仕組になつているつりぼりに類する)ものといわなければならない。一般的に、つりぼりで遊ぶ者が景品(つり上げた魚)をねらう気持よりも、パチンコをして遊ぶ者が景品をねらう気持の方が強い、といえるかもしれない。しかしそれは量的なちがいとみるのが相当であり、両者ともに一つの施設を利用して遊ぶ娯楽的施設である点において共通性をもつており、質的には類似しているということができる。つりぼりにおける景品は利用料金の範囲をいでず、パチンコにおける景品は無制限であるということも、両者の性質の類似性を消すものではない。この点に関する原告の主張は採用することができない。

原告は、賞品を出さぬ法七五条四項一号ないし三号の施設においては利用料金はそのまま施設経営者の所得となるに反し、賞品を出すパチンコ施設においては利用料金から賞品代を引いた額がパチンコ経営者の所得となる、という点において両者は異る、という。賞品を出すか否かによつて施設経営者の所得にちがいがあり、その限りにおいて賞品を出す施設と出さぬ施設との間にちがいがあることはまちがいないが、問題は、別の観点からみてそういうようなちがいがあるに拘らず、大衆の娯楽のための施設で客がその人的物的施設を利用して楽しむものであるという点において同じであるといえるか、にある。のちにもふれるが、右の観点からは、パチンコ施設は右一号ないし三号の施設と類似するといえる。原告の主張は直ちに採用することができない。

ところで、原告は、パチンコ施設の利用については入場税の課税標準を確定することができない、という。果して然るか。

法七五条四項一号ないし四号の施設の利用者に対してはその利用料金を課税標準として入場税を課するのであり、利用料金とは何らの名義をもつてするを問わず、右施設の利用について、その対価又は負担として支払うべき金品をいうのである。パチンコ施設においては、客は料金を払つて玉を受取り、その玉をパチンコ機にいれてはじき、当り穴にいれることを楽しむ。したがつて客が玉を受取るに当つて払つた料金は即ちパチンコ施設利用の対価である、ということができる(パチンコ施設を利用した結果客がパチンコ経営者から賞品をもらい受けることがあつても、これをもつて客がパチンコ施設利用の対価を払つたという事実を動かすことはできない)。即ち、パチンコ施設についても法七五条五項の利用料金はあるのであり、そして玉一個を受取るにあたつて払う料金は確定できるのであるから、パチンコ施設の利用に対して課する入場税の課税標準は確定可能である、といわなければならない。具体的にいえば、パチンコ経営者が玉を渡すと引換に受取つた金は、入場税を含まない料金であるか(この場合には入場税を客からとらなければならない)、又は入場税と料金とを合せたものであるか(例えば二十円中十円が料金、十円が入場税)、そのいずれかである。

原告は、当り穴に玉をいれた客にパチンコ経営者が賞品を出さなければならぬ以上、利用料金は確定不能のはずである、というが、これは誤つた考えである。入場税は消費行為を課税客体とする消費税の一種であり、パチンコ施設利用における消費行為は、パチンコをして遊ぶにあたり利用料金を払う(玉を買う)ことである。その額は前記のとおり確定することができる。どれだけの額がパチンコ経営者の所得となるかというようなことは全く別の問題である。賞品を出さない一号ないし三号の施設においても利用料金がそのまま所得になるのではない。所得を出すには、施設の維持修繕費、従業員の人件費等を控除しなければならない。ただパチンコ施設においては、必要経費の中に賞品代がはいるだけのことである。のみならず、消費税の客体なる消費行為に対しては、対価的なものが与えられるのがむしろ普通である(これは遊興飲食税について考えればすぐわかることである)。この点に関する原告の主張はなつとくできない。

このようにパチンコ施設の利用者は、その施設を利用することにより当然に、右利用料金(玉を受取るために支出した料金)を課税標準として、入場税を納付すべき義務を負うものであり、利用者が入場税を納付すべき義務あることを意識していると否とにかかわらない。それはあたかも、映画館にはいる者は入場税を納付する義務あることを意識していると否とにかかわらず入場税を納付しなければならないのと同じである。そして原告が肩書地においてパチンコ経営を営業としていることはさきに述べたとおりであるから、原告は、法八六条、八七条一項、東京都都税条例三二条(昭和二十九年条例第四号による改正前の)により、特別徴収義務者として、その施設利用者から入場税を徴してこれを東京都へ納付する義務を負うのであり、原告がその義務あることを意識していると否とにかかわるものでない。しかも法八七条四、五項によつて明らかなように、特別徴収義務者は、現実に徴収した入場税金のみならず、徴収すべきであつた入場税額についても申告納入の義務を負うものであるから、原告は、その客から入場税を徴収していなかつたとしても、特別徴収義務者として、徴収すべきであつた入場税について申告納入しなければならないのである。この場合特別徴収義務者のパチンコ施設利用者に対する求償権の行使が、右利用者の住所氏名不明のために事実上困難におちいることは当然予想されることであるが、それはあえてパチンコ施設だけに特有な事情ではなく、右一号ないし三号の施設についても同じであり、かつパチンコ経営者が特別徴収義務者としてやるべきことをやらなかつた結果起つたことであるから、求償権行使の事実上の困難を理由としてパチンコ施設が法七五条四項四号の施設に当らないとすることはできない。

原告がその徴収すべき入場税について申告書の提出も税金の納入もしていないことは当事者間に争いがないから、前記税務事務所長が原告に対し、法九四条二項九七条二項により、入場税の税額の決定をしたことは適法であり、原告の異議申立を理由なしとして棄却した被告の決定も違法ではない。よつて被告に対する原告の請求は理由なしとして棄却すべきである。

以上のとおりであるから、訴訟費用の負担について行政事件訴訟特例法一条民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新村義広 入山実 石沢健)

(別表省略)

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